糸芭蕉を育てる畑仕事に始まり、そこから繊維を取り出し、
コツコツと糸をつくり、撚りをかけ、絣を結び、染め…
長く、美しい過程があります。
一つひとつの手仕事の重なりと、作り手たちの心模様が
美しい布を生みます。
野生の糸芭蕉は繊維が硬く、喜如嘉では栽培をしています。葉、芯を切り落として繊維を柔らかくする「芯止め」を何回も行うことで、上質の繊維をとることができます。
糸芭蕉とその繊維を苧(うー)と呼びます。切った幹の切口は20数枚の輪層になっていて、中央ほど柔らかい。1枚ずつ剥ぎながら、4種類に分けます。
大鍋に木灰汁を沸騰させ、縄を底に敷いて、その上に束ねた原皮を重ねて煮ます。木灰汁の加減は長年の勘に頼る、とても難しい仕事です。4種類に分けた苧は別々に炊きます。
煮た原皮は、束が崩れないように気をつけながら水洗いをし、木灰汁を落とします。バーキ(竹ざる)に入れて重石をし、適度に水を切ります。
竹鋏で原皮をしごいて、不純物を取り除きます。柔らかいものは緯糸に、硬いものや色のついたものは経糸に分けます。苧引きの良し悪しが布の仕上がりに大きく影響します。
経糸用、緯糸用に分けた繊維が適度にたまると竿にかけます。干す場所は風が当たらない日陰を選びます。普通、竿の真ん中から右手が経糸用、左手が緯糸用と決められています。
苧績みする時に、繊維を長いままで水に浸すのは具合が悪く、繊維を2、3本ずつ巻いて、こぶし大の鞠型にします。色のついたものや硬いものは分けておきます。
チングを水に浸し、軽く絞ります。片手に小刀を持ち、用途に応じて太さを決め、繊維を裂き機結びをします。制作工程の中で最も経験のいる作業です。
緯糸の地糸には、撚りをかけず、手巻きします。この巻き方をすると、糸は中から出てくるので、糸が引っ張られず耳がつりません。
毛羽立ちを防ぎ、糸を丈夫にするために、撚りを掛けます。霧吹きで湿気を与えながら、経管に巻きとります。撚り加減が織りにひびきます。
撚りを掛ける時に湿らせた糸は、そのまま置いておくと腐ってしまうため、4本建てで回転式の整経台で手早く整経します。
諸染(むるずみ)糸と絣糸は、綛にしたまま木灰汁で煮て、糸を柔らかくします。上質の糸ほど煮綛の時間は短くなります。よく水洗いしてからピンと張ります。
綛の両端を竿にかけたまま、整経のたるみを片端に寄せます。経絣は絣柄に合わせてずらし、小綴じ、大綴じをし、寸法通りに柄の組み合わせをします。
ピンと張った絣用の糸に尺串(定規のようなもの)を一定にあて、染めない部分にウバサガラ(原皮の裏側)を巻き、さらにビニール紐で固く結びます。
染料は主に、想思樹と琉球藍を使います。染料がにじまないように、乾かし過ぎて、糸が切れないように注意を払います。
染めあがった経緯絣糸は、ビニール紐をはずし、生乾き状態でウバサガラを外します。経絣糸の場合、ずらしてあるものは元に戻しておきます。
諸染(むるずみ)糸や緯絣糸は、湿気を与え、綛を張り、枠(糸を操るための竹製の道具)に巻き取ります。
デザインにそって整経した地糸に、縞用の諸染(むるずみ)糸や経絣糸を組み合わせ、筬に仮に通します。
仮筬通しをした糸の輪を、丸棒に通し、棒の根本で絣がずれないように結びます。経糸の張り具合を一定にして丁寧に巻き取ります。
巻き取った糸を仮筬(おさ)から外し、高機の上に置いて綜絖(緯糸を通すために、経糸を上下に分ける器具)通しをします。喜如嘉の綜絖通しは一人で行います。
筬(おさ)に、綜絖通しをした糸を通す工程です。 布抜きムン(筬通し)を使って、一対ずつ順序よく通していきます。
芭蕉は乾燥に弱く、すぐに切れるので、絶えず霧吹きをかけながら織ります。織る時になると、苧績み、撚り掛け、絣結び、巻き取りなどの良し悪しがよくわかります。
喜如嘉では、織り上がった反物の汚れを落とし、木灰汁で炊き、ユナジ液に浸し(中和させる)、布目を整え…。最後の仕上げをするまでの工程を総称して洗濯と言っています。